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第五回 マーケティング力の強化なくして成長なし岩切章太郎にみるマーケティングの真髄 経営の世界でもっとも基本となる能力はなんだろうか。筆者は、「マーケティング力」だと考えている。では、「マーケティング」とは、何をなすことを意味しているのだろうか。
ちょっとした本屋にいけば、「マーケティング」というタイトルの付いた本がごまんとある。それぞれに有益な話が書かれているのだろうが、経営の実践に役に立つ本は以外に少ないと思える。そんな中で、筆者が共感を覚えるのは、マーケティング界の泰斗と称されるセオドア・レビットの次の指摘だ。 「マーケティングとは、顧客を獲得し、維持する活動の全てを意味しています」 商品なりサービスを提供して対価を得ることで企業は存続できる。それだけに、対価を支払ってくれる顧客を獲得することが、企業活動の基本となるとの考えだ。ただし、一度限りの顧客では、企業は持続的に成長することはできない。そこで、次には、対価を支払ってくれた顧客を維持する活動に取り組むことを考えろと、レビットは指摘しているのだ。
ただ、レビットは、「新しい顧客を獲得し、獲得した顧客を維持する」ために、何をなすべきかまでは言及していない。では、顧客を獲得するためにどうすればいいのか、また、維持するためにどうすればいいのだろうか。
日本の先達の経営者に、素晴らしいお手本がある。それは、昭和30年代から40年代にかけて、宮崎県を日本一の観光地に育て上げた岩切章太郎だ。 新しい顧客を獲得するためにはどうすればいいと岩切さんは考えたのか。
まず考えるべきは、お客さんは誰なのか、売るべきものは何なのか、と、的を絞り込むことだと、岩切さんはいう。 では、岩切さんは誰をお客さんにしようとしたのか。一つの的は、お隣大分県別府温泉にくる観光客だ。当時の別府は日本一の温泉地、そこにくるお客さんの1割を宮崎に誘引しようと考えたのだ。 売り物はなになのか。岩切さんが目をつけたのは、「建国3000年の歴史」と「南国情緒」だった。宮崎には天照大神がお生まれになった「阿波岐ケ原の聖域」があり、鵜戸神宮も宮崎神宮もある。これを日本中どこにもない観光資源として売り出そうと考えたのだ。
「南国情緒」としては、青島のビロー樹があった。これを南国宮崎の観光資源として活用しようというわけだ。 新しい顧客を獲得するために、岩切さんが、次に取った策は、「存在を知らせること」だった。いかに「歴史的遺産に恵まれた、南国情緒たっぷりの宮崎」が素晴らしいところであっても、その良さを知らしめないと、来てはもらえないのだ。では岩切さんは具体的にどのような策をとったのか。
岩切さんが目をつけたのは、別府に来る観光客と接する機会の多いマッサージさんたちだ。まず、別府のマッサージさんたちを宮崎に招待して歓待し、その良さを満喫してもらい、宮崎のPRをお願いしている。
「お客さん、別府もいいところだけれど、宮崎もいいよ」と、いってくれるマッサージさんを増やすことで、宮崎に来る観光客を増やしたという。 「的を絞り込み」「存在を知らせること」で、宮崎は、新しい観光客の獲得に成功したが、それだけで満足していては、「顧客を維持する」というレビットのマーケティング理論のお手本にはなれない。
岩切さんは、顧客を維持するためには、何が大事だというのか。
それは、一度来てくれた顧客に、「ああ、良かったな、また来たい」と思わせることだという。「また来たい」と思わせるために、観光コースをどのように設定すればいいのか、バスガイドはどうあるべきなのか、料理は、接遇は……といった具合に克服すべき課題を設定し、全員参画で知恵をだしていったのだ。 岩切さんは、「的を絞り込み」「存在を知らせ」「来てもらい」「また来たいと思わせる」ことで、新しい顧客を獲得し、維持することに成功したのだが、この一連の思考プロセスを貫けば、必然的にマーケティング力は強化されると、筆者は考えている。
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