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疋田文明からのメッセージ

第四回 喫緊の課題は生産性向上――その4

「人間への投資」が、生産性を高める最大の要因

 生産性を高める要因で、もっとも重要なのが、今回テーマにする「人間への投資」だ。過去3回にわたって生産性を高める要因について書いてきたが、いずれも実践するのは人間に他ならない。それだけに、「人間への投資」が大事なことはいうまでもないのだが、これができていない企業が圧倒的に多いように思える。
 まず、シカゴ大学ベッカー教授(1992年ノーベル経済学賞受賞者)の以下指摘を頭に刻み込んでほしい。「人間には無限の可能性がると考える。人はコストではなく、無限の可能性がある資源。それだけにやる気を阻害することは大いなる無駄なのだ。――略――人間は機械、設備と同じ資本、経営資源。しかし、設備との違いがあることを知っておくべき。設備は改良を重ねフルに使いこなさなければならないが、自ずと能力には限界がある。しかし、人間の可能性は無限大。人に投資することで生産性を高めることができる」
 まさに同感だ。遠回りに思えるかも分からないが、今回の厳しい不況を乗り切るために、何より優先すべきは、人材育成をも含めた社員への投資なのだ。ところがいま、多くの企業は社員への投資を控えているような状況にある。これでは、景気も業績も回復しないと思う。
 では、生産性を高めるためには、どのような人材を育成すればいいのだろうか。参考になるのはトヨタ生産方式だ。トヨタ生産方式については、人偏のついた「自働化」と「ジャストタイム」が二本柱だといわれるが、その原点にあるのは「多能工の育成」だ。この多能工こそが生産性を高めると筆者は考えている。トヨタ生産方式は、苦境の中で生まれたものだ。昭和30年代の自動車業界は、アメリカのGM、フォードが圧倒的に強かった。アメリカ勢は、大きなマーケットで大量生産で原価を下げている。一方のトヨタは、海外では売れず、日本という限られたマーケットが相手だけに大量生産というわけにはいかない。
 そこで考えられたのが、少量生産でありながら、大量生産に負けない原価で車を製造できないかということだった。トヨタでは、原価低減を目的に、経営の現場のあらゆる無駄を排除すべく様々な取り組みがされたが、一番に評価されるべきは多能工の育成だと思う。トヨタでは、排除すべき「ムダ」のひとつに、『手待ちのムダ』をあげている。本来は、将棋界の用語だが、トヨタでは、作業員が手をあけて待っている状態を『手待ち』といい、この時間を無くし生産性を高めようとの考えだ。
 例えば、溶接の現場で『手待ち』が発生したとしよう。このとき、溶接工にほかの業務をこなせるスキルがあれば、他の現場に入って仕事に従事することができる。生産現場では、全ての工程が同じ時期に忙しいということはあまりない。忙しい工程の仕事をそのときに余裕のある部門の人がサポートできれば、経営の効率は上がるということだ。
 これまで、多能工という言葉は、生産現場で使われてきた。しかし、多能工が活きるのは生産現場だけではない。小売業サービス産業においても『多能な人材』を育てることで生産性を高めることはできると考えていただきたい。

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